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コラム

誤った二分法/偽のジレンマ/二分法の誤謬(false dichotomy/ false dilemma)

2024.02.16

認知バイアスとは、情報を不完全または偏った方法で処理することによって生じる、人間の判断や思考における系統的な偏りのことです。今回はメンタル不調の際などに陥りやすい認知バイアスの一つ、誤った二分法を紹介します。誤った二分法は他にも、偽のジレンマ、二分法の誤謬と呼ばれることもあり、英語だとfalse dichotomy, false dilemmaと呼ばれます。調子が悪いときに陥りやすい認知バイアスを知ることで、より正確な判断ができるようにしましょう。

 

誤った二分法とは?

誤った二分法とは、限られた選択肢を相互に排他的である、あるいは唯一の選択肢であるかのように誤って提示した場合に起こる論理的誤謬です。つまり、本当は両方を選ぶことができるのに、AかBのどちらか一方を選択しなければならないと誤解している(させられている)場合や、Cという選択肢があるのに、そのことを知らされていない、気が付いていない場合です。

 

例で考えてみましょう。高橋さんは休みもなく忙しく仕事をこなしていましたが、さすがに回らなくなり上司に相談しました。上司からは、特にサポートもなく、ただ「ここが頑張り所だ」と言われるだけでした。いよいよ心身の不調をきたし、さすがにこれではもたないと思い、高橋さんは上司に退職を申し出ました。その申し出を聞いて、上司は「退職は構わない。しかし、ここで退職しては何も得られないし、今後もそうだろう。ここで頑張ってやり遂げれば、確実に成長できる。もう一度しっかり考えてみなさい」と言いました。

 

いかがでしょうか、この上司の言葉には誤った二分法が用いられています。どこが誤りなのか説明します。

 

◆辞めて成長できない or 続けて成長する だけなのか?

当然ですが、辞めた上で成長する、続けたけれど成長しない、といったことも起こってきます。高橋さんの希望であろう、辞めると成長することは排他的ではなく、両立可能なものです。

 

◆辞める、続ける以外の選択肢は?

一般的には休職制度があり、いったん回復させて、改めてしっかり考えるという選択肢があるはずです。

 

この例では、上司からの言葉としましたが、精神的に不調を来していると、自分の頭の中がこのような、極端でネガティブな誤った二分法の思考になってしまうことがあります。疲れているときに、考え事をしなければいけない場合は、誤った二分法に陥らないように注意する必要があります。

 

他の、誤った二分法の例として、「あなたは私の味方なのか敵なのか」や「従業員の給料を上げるために、値上げをします」といったものがあります。敵でも味方でもなく中立であることもあり得ますし、今まで以上に売り上げを伸ばすことで、値上げせずに給料を上げることは選択肢としてあるはずです。

 

なぜ誤った二分法が起こるのか?

人が考えるときに、二分法で考えると負担が少なく楽です。上下、左右、善悪、真偽、色々な二分法のとらえ方が我々の日常にはあります。しかし、二分法で考えるために過度な簡略化をしてしまい、誤って相互に排他的であると仮定してしまったり、選択肢を網羅することができずに、誤った二分法に陥ってしまいます。精神的に不調な時は、思考力が弱まり、ネガティブな発想が増えることがあり、誤った二分法に陥りやすくなるので、注意が必要です。

 

誤った二分法に陥らないためには?

では誤った二分法に陥らないようにするにはどうすればいいのでしょうか。ここでは3つの方法を紹介します。

 

◆第3の選択肢を考える

さきほどの高橋さんの例で言えば、辞めるか、仕事を続けるかという2つの選択肢しかありませんでしたが、実際には休職という選択肢があります。誤った二分法に陥っているかもしれないと思ったら、第3の選択肢がないか探してみてください。

 

◆マトリックスで考えてみる

他の第3の選択肢を探す方法として、表を活用する方法があります。(辞める、辞めない) × (成長する、成長しない)で考えてみます。そうすると高橋さんの場合では、辞める×成長しない、辞めない×成長する、の選択肢のみで考えていて、辞める×成長する、辞めない×成長するの選択肢は考慮されていないことがわかります。

 

 

 

 

◆白黒つけようとしない

これは全ての誤った二分法に当てはまるわけではありませんが、例えば「あなたは私の味方なのか敵なのか」といった状況には使える考え方です。基本的には味方でも、それには反対だ、それはよくないので注意する、と敵対する行動をとることもあります。全ての意見が一致するということは難しいですし、味方だと思えばこそ注意してくれたのかもしれません。それを、反射的に「味方してくれないなんて、お前は敵だ、嫌いだ」としてしまってはどんどん苦しくなってしまいます。二分法での思考、判断は楽ですが、常に成り立つわけではないことに注意しなければなりません。

 

まとめ

今回は誤った二分法の話をしました。誤った二分法は、本当は両方を選ぶこともできるのにどちらかしか選ぶことができないと勘違いするとき、他に選択肢があることに気が付かないときに生じます。誤った二分法は意図的にも非意図的にも生じます。メンタルヘルスの領域では、不調で思考力が弱ったり、ネガティブになったときに生じやすいので注意が必要です。